オリンピックで大量メダルラッシュが期待される日本の柔道ですが、パラリンピックにも柔道競技があります。
前回リオデジャネイロ大会においても、日本人選手がメダルを獲得してニュースになりましたから、ご存知の方も多いかもしれません。
では、パラリンピック柔道(パラ柔道)とは一体どんなものなのでしょう?
今回は、パラ柔道のルールや見所、注目選手などを紹介していきたいと思います。
そもそもパラ柔道(視覚障害者柔道)とは?
パラ柔道は、視覚障害を持つ人々だけで行われます。
リオデジャネイロ大会には36ヶ国129名の選手が出場しました。
日本ではまだあまり認知されていないこの競技ですが、当然ながら「目が見えないのに柔道が出来るの?」「危険じゃないの?」という疑問が出てくるかと思います。
結論から言うと、出来ます!というのも、健常者柔道とは少し違ったルールが適用されているからです。
ここからは、まずパラ柔道のルールを説明していきます。
・試合時間は4分間
・勝敗は「一本」「技あり」のポイントか、「指導」3つ累積の反則負けで決まる
と、大体は健常者柔道(IJF国際柔道連盟ルール)と共通です。
違ってくるのはここからで
・試合開始線(両選手が立って礼をする線)の間隔は1メートル
・お互いに組み合った状態から試合を開始する
・試合中に両者が離れた場合には「待て」がかかり、開始線で組んだ状態から再開する
・場外「指導」が存在しない
という風に、目の不自由な選手に対する配慮が多くとられています。
審判のコールもわかりやすく、「指導、白」「場外、待て」など、ジェスチャーだけでなく、どちらの選手が何をしたのかがハッキリと口頭で伝えられることになっています。
なお、階級区分ですが、他のパラ競技が障害の程度によって分けられているのに対し、パラ柔道は「男女・体重区分のみ」となっています。厳しい世界ですね。
パラ柔道の特徴
なんと言っても、一番の特徴は「とにかく技がたくさん出る!」これに尽きます。
組み合った状態から試合が始まるため、開始直後から激しい技の応酬になるのです。
また、ポイントで勝っているからといって、組手争いで時間稼ぎをすることも不可能です。
なので往々にして、パラ柔道は「一本」勝ちで勝負が決まることが多く、それも投げ技によるものなので、迫力満点な試合が多く、観ていても非常にエキサイティングなのです!
「でも、見えない状態で、どうやって相手を投げるの?」と思われる方も多いでしょう。
しかし健常者の柔道でも同じことが言えるのですが、柔道というのは決して相手をパワーだけで強引に投げるのではなく、あくまで「相手の動きを制して、利用して」投げるのが基本なのです(これを「崩し」と言います)。
少し個人的な私見になるのですが、視覚に障害を抱えた方は自らの経験からか、相手の動きを感じとる能力が高いように思います。
握られた襟から、袖から、そして相手の重心から。次はこう動くだろうな、という予想能力がおそらくは高いのです。
「目は口ほどに物を言う」という言葉がありますが、視覚障害のある柔道家の方々にとっては「手は口ほどに物を言う」のかもしれませんね。
ですからパラ柔道では、「崩し」からの「投げ技」の技術に長けた選手が多いのではないでしょうか。
またもうひとつの特徴として、選手の現役期間が長い傾向もあります。
競技人口が多くはないのも一因ではあるでしょうが、それ以上に怪我をしにくく(選手の受け身の上手さには定評があります)、大会スケジュールもそこまで詰まっていないため、息の長い活躍が見込めるのかもしれません。
ですから、同じ選手の成長や上達を長く見て実感できるという楽しみもあります。
ベテランから若手、二人三脚の夫婦選手も!
日本はパラ柔道でもかなりの強豪国です。リオデジャネイロ大会(銀メダル1、銅メダル3)は記憶に新しいとして、それ以前に行われた各パラリンピックでも
・2012年ロンドン大会 金メダル1
・2008年北京大会 銀メダル1
・2004年アテネ大会 金メダル1、銀メダル2、銅メダル1
・2000年シドニー大会 金メダル1、銅メダル2
・1996年アトランタ大会 金メダル2、銀メダル1、銅メダル1
・1992年バルセロナ大会 金メダル2、銀メダル3、銅メダル2
・1988年ソウル大会 金メダル4、銀メダル2
と、パラリンピック柔道競技が導入されて以降、必ずメダルを奪取。
その他アジアパラリンピックやフェスピックなどでも多数のメダルを獲得しています。
さてそんなパラ柔道の中でも、屈指の有名選手をご紹介したいと思います。
廣瀬誠選手
まずは廣瀬誠選手。2004アテネで銀、2008北京では7位、2012ロンドンでは5位でしたが、2016年リオデジャネイロでは再度銀メダルに返り咲き。
長年に渡って日本パラ柔道界を牽引してきた大ベテランですが、残念なことに引退されてしまい、2020東京ではその勇姿を見ることは叶いません。
広瀬悠選手
同じヒロセさんですが、こちらは字の違う広瀬悠選手。
元々はインターハイにも出場したほどの強豪柔道選手でしたが、緑内障を患い、後に視覚障害者柔道に転向。2008年北京5位、2012年ロンドンは出場を逃したものの、2016リオデジャネイロでは代表に復帰。
メダルにこそ届きませんでしたが、パラ柔道重量級選手として、ダイナミックな技で魅せてくれる選手です。
2020東京目指して、今も選手兼コーチとして活躍されています。
広瀬順子選手
次にご紹介するのもヒロセさんです。女子の広瀬順子選手。
現在、日本パラ柔道では唯一のメダルホルダーです(リオデジャネイロ大会銅メダル)。
そして特筆すべきは、先の広瀬悠選手の奥様でもあるということ!
もちろん2020東京を目指し、夫婦二人三脚で頑張っておられます。
順子選手のコーチをしているのが夫の悠さんであり、パラ柔道界の最強夫婦ともおしどり夫婦とも言われるお二人です。
半谷静香選手
もう一人挙げるとすれば、半谷静香選手です。
リオデジャネイロ大会では惜しくも3位決定戦で破れ、メダルにこそ届きませんでしたが、近いところでは2018年の第33回視覚障害者柔道大会で優勝。
日本人女子選手の少ない48kg級を今後も牽引していく存在です。
まとめ
柔道と言えばオリンピックが注目されがちですが、パラ柔道もそれと匹敵する面白さがあり、また、違った見所もあります。
次々に繰り出される技、観客にもわかりやすい審判など、あまり柔道に詳しくない人が観たとしても、その面白さは伝わるはずです。
視覚障害者柔道大会は学生大会・全日本大会など年に数回行われており、いずれも無料で観戦することが出来ます。
是非皆さんも足を運んでみてはいかがでしょうか。未来のパラ柔道日本代表選手を発掘出来るチャンスかもしれませんよ。
(uo)