柔道といえば、「相手をいかにして投げて(あるいは寝技で)一本勝ちを狙うか」というイメージがあると思います。大半の人はそうでしょう。
でも実は、柔道にも「演舞(形の大会)」があるということをご存じでしょうか?
今回はあまり知られていないであろう「形」にスポットを当ててみたいと思います。
そもそも「形」って?
柔道は決してパワー勝負の投げ合い・押さえつけ合いではありません。
豪快に相手を投げ飛ばす技の影には「どうやって相手の体勢を崩すか」「どのタイミングで何の技を仕掛けるか」「その技の力を最大に発揮するにはどう動くべきか」といった、巧妙な駆け引き・あるいは理論があります。
これを「理合い(りあい)」と呼びます。
2人組であらかじめ決められた攻撃・防御を繰り返し練習することによって、その理合いを学び体得し、実践に繋げるのが「形」の大きな役割です。
形には分類があり、「投(なげ)の形」「固(かため)の形」「柔(じゅう)の形」「極(きめ)の形」「講道館護身術」「五(いつつ)の形」「古式の形」の7種類に分かれています。
7種類の形
以下にそれぞれの特徴を簡単に説明しておきます。
投(なげ)の形
手技・腰技・足技・捨身技からなる、いわゆる立ち技
初段(捨身技以外)、弐段取得の際に必要
固(かため)の形
抑込技・絞技・関節技からなる、いわゆる寝技
参段取得の際に必要
柔(じゅう)の形
相手の攻撃を利用した返し技、力のない女性にも向く
四段取得の際に必要
極(きめ)の形
投げ技・固め技・間接技を駆使した実践的な形
五段取得の際に必要
講道館護身術
素手・短刀・杖・拳銃で攻撃された場合の返し技
六段取得の際に必要
五(いつつ)の形
攻防の理合いを水の流れに例えて表現した芸術的な形
七段取得の際に必要
古式の形
勝負上の精妙な理合いの原則を理解させるための形
八段取得の際に必要
ということで、柔道の段位を取得する際には、必ず形の評定が入ることになっているのです。
いかに試合に勝てても、強さだけではダメ。その理論や精神をよく理解しなさい、といったところですね。
ちなみに古式の形は、それぞれの技の名前がとても格好良いのです。
「夢中(ゆめのうち)」「滝落(たきおとし)」「夕立(ゆうだち)」など、ちょっと心をくすぐられる名前だと個人的には思ってしまいます。
形の試合の特徴
形の試合は相手と直接対戦するわけではないので、「勝敗」がはっきりとわかるわけではありません。
審査員による採点で順位が決定します。
審査方法は国内(講道館ルール)と国外(IJFルール)で違いますが、大まかにいうと5名の審査員がそれぞれ得点を出し、最高点と最低点を除いた3つの得点合計・あるいは標準で競われるというものです。
審査の対象となるのは、決められた技の出来だけでなく、場内での振る舞い全てが対象となります。
演技を始める際の礼法・歩き方なども評価基準となるため、演技前から終了後まで、一切気を抜くことは出来ません。
白熱し、ざわめきも投げられたときの衝撃音や発声なども多い「普通の」柔道の試合とは違い、会場はしんと静まり返り、審査員も観客も、皆が自分達の演技を見ている…というのは相当な緊張感です。
1つのミスによって平常心が崩れ、その後の技全てに影響が出てしまうため、「普通の試合よりも精神的に疲れる」と競技者の方は仰っていました。
世界に広がる「形」
国際的な柔道人気に伴い、発祥である日本だけでなく、世界各地でも形の大会が行われています。
代表的なところでは「世界形選手権大会」があり、こちらは2009年から毎年開催されています。
参加国も25~30ヶ国あり、その広がりが伺えますね。
実際に日本で柔道を学んでいる外国籍の方にお話を聞いたところ、「形を通じて柔道の精神や、日本人の精神を学んでいます」とのことでした。
その方はフランス出身なのですが、「柔道の精神と、ヨーロッパの騎士道精神はかなり似ている」とのことで、それがフランスでの柔道人気を支えているのかもしれません。
ちなみに日本の競技者登録数は約15万人ですが、フランスはなんと60万人にも上るそうです。
あくまでも「登録者数」であり、登録はもうしていないながらも何らかの形で柔道を続けている人もいますので、日本の実数はもう少し多いのだと思いますが、それにしても差がありますね。
形の魅力は誰にでも学べること
また、形の競技は前述した「理合い」で行うもので、投げる側=「取」はもちろん、投げられる側=「受」も、いかに上手く綺麗に投げられ、受け身をとるかということを考えて動いています(一般論ですが、受が上手だと技がより美しく見えます)。
なので、さほど腕力や筋力は必要としません。
極の形より上の種目になると、そもそも練習しているのも高段者がほとんどなので、かなり年齢を重ねた選手がたくさんいます。
ロマンスグレーどころか、失礼ながら高齢者と呼んでも差し支えないお爺様(ごく少数ですが女性もいらっしゃいます!)までが、見事な技を披露しているのです。
なお、柔の形は少し特殊で、成り立ちが力のない女性の護身を目的としていたこともあって女性選手の活躍が目立ち、女子中学生のペアが入賞したこともあります。
現在は昇段要項が男女で統一されていますが、昔は女性が弐段を取るには柔の形が必須だった時期もあるのです。
このように老若男女を問わず競技を続けることが出来、活躍が目指せるというのが形の一番の面白さなのかもしれません。
今回はあまり知名度の高いとは言えない、柔道の形についてお話ししてみましたが、いかがだったでしょうか。
大会数は多くはないものの、国内国外を問わず、あちこちで行われているものですので、機会があれば是非一度注目してみてください。
余談ですが、YouTubeなどに「三船久蔵十段」の動画がアップされています。
まさに達人といった動きと、魔法にしか見えないようなキレですが、形の試合にはこれに通ずるものがあり、いつもとまた違う柔道の一面を垣間見ることが出来ますよ。
(uo)