ケニアと言えば長距離走。
正月の箱根駅伝で黒人留学生が颯爽とエース区間を走ったり、オールスター感謝祭の赤坂ミニマラソンでエリック・ワイナイナさんが出場したりと、陸上競技に興味がない人でもそれは知っている人も多いのではないだろうか。
でも「コーチはYouTube」と主張するケニア出身のやり投げ選手、ジュリアス・イエゴ選手のことを知っている人は少ないのではないだろうか。
やり投げという競技
やり投げとは800グラム(女子は600グラム)のやりをどれだけ遠くに飛ばせるかを競うスポーツ。
主に欧州で人気で、一般的にはあまりなじみがないが、最近は日本人も世界大会で入賞ラインまで来ていることから徐々に注目を集めている。
ルールはシンプルだが、テクニックは高度で、パワーがあれば勝てるというものでもない。
地肩の強さはもちろんのこと、手首のスナップ、やりの角度など些細な違いが飛距離に出る。
意外と大切なのが助走、つまり走るということだ。
助走は距離にも規定があるし、投げ動作に入る前のステップで如何にスピードを殺さずやりに力を伝えるかが重要になる。
投げる瞬間、体も前に投げ出して、転げるように投げる選手もいる(実際、転んでいる選手もいる)。
ユニークだがそれを取得するためには投・走両方の技術が必要なのだ。
世界チャンピオンのバックグラウンド
そんなやり投げだが、ケニアから常識を覆す選手が出てきた。ジュリアス・イエゴである。
彼は2011年に全アフリカ選手権で優勝、ケニア記録を打ち立て頭角を現し、2015年の北京世界陸上で金メダル、この時世界歴代3位(当時)となる92m72を記録した。
その後の2016年リオオリンピックでも銀メダル獲得と、「ケニアは長距離走だけ」という概念を覆した。
彼の凄みは記録だけではなく、そのバックグラウンドにもある。
14歳でやり投げを本格的に始めたイエゴだが、ケニアの貧しい村出身の彼には練習パートナーはおろか、教えてくれるコーチすらいなかった。
「コーチはYouTube」YouTube Manの誕生
しかし、それでめげないのが彼のすごいところで一人、YouTubeを見て動きを研究し、練習を繰り返した。
もちろん満足な器具はないので、自作でひたすら見よう見まね。ついたあだ名は「YouTube Man」。
今でこそYouTuberが流行語にノミネートされて、誰しもが容易に動画を見れる時代だが、イエゴが14歳といえば今から15年も前の話である。
日本での知名度ですらたかが知れているだろう。
でも彼はケニアの貧しい家庭でやり投げとYouTubeに没頭していた。
オリンピックで活躍した時も、フィンランドのコーチのアドバイスはスカイプで行った。
テクノロジーの進歩がスポーツをボーダレスにした。
今ではオリンピアンとなり、YouTubeで研究される側になった。
30歳になり、思うような結果を出せていないが、東京オリンピックの期待選手であることは間違いない。
ケニアにやり投げという新たな道を作り、貧しい若者にYouTubeという希望を見出したイエゴ。
彼の夢は世界中の人々に勇気と感動を与えてくれた。
(oa)