陸上のトラック一周を4人でバトンを継なぐ4×100mリレーは昔から「日本のお家芸」と言われてきました。
近年では、2008年の北京五輪での銅メダル(のちにジャマイカチームのドーピングが発覚し繰り上がりで銀メダル)をかわきりに、2016年のリオ五輪では銀メダル、昨年2018年のアジア大会では20年ぶりの金メダル獲得と、2020年の東京五輪では陸上種目の中で1番金メダルに近い種目と言われています。
ではなぜこれだけ日本のリレーは強くなったのか。
今回はその理由に迫ってみたいと思います。
強さの秘密はアンダーハンドパス?
様々なメディアで日本代表のリレーが強い秘密は、リレーのバトンパスにあると紹介しています
リレーのバトンパスには、手を後ろに大きくあげるオーバーハンドパスと、手を下に下げて渡すアンダーハンドパスがあります。
2001年から日本チームはアンダーハンドパスを採用しています。
メディアでは一見良いことらだらけのように伝えられているアンダーハンドパスも、主流のオーバーハンドと比べてメリット、デメリットもあります。
まず、バトンをもった走者と受け取る走者が大きく後ろに手を延ばすオーバーハンドパスですが、両走者とも後ろに手を伸ばすことで、1.5mから2mほど「走らなくて良い距離」である利得距離が生まれます。
ただデメリットもあり、腕を伸ばすことで走りのフォームが崩れることやバトンパスでのミスの確率の高さなどがあります。
次にアッパースイングのように受け手側に渡すアンダーハンドパスですが、オーバーハンドよりも近い距離で渡すのでバトンのミスが少なくなります。
また、フォームを崩すことなくバトンを受け取ることができるのでスムーズな加速ができます。
しかし、オーバーハンドパスよりも走らなくて良い距離の利得距離はあまりありません。
日本代表チームは長年の研究からオーバーハンドパスよりも受け手がスムーズに加速できるので、バトンパスの時に速度を落とさず走ることができると仮定し、アンダーハンドパスを採用し、リレーで世界大会の常識となりました。
各国アンダーハンドパスにシフトチェンジしていくのか?
ではなぜアンダーハンドパスを採用している日本が決勝の常連になっているのに、各国は それを参考にしてアンダーハンドパスにチェンジしないのか疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
それは、各国のチーム事情にあります。
オーバーハンドパスは、1960年代から各国で採用されており、日本の大半の中学や高校、大学でもこのオーバーハンドパスを採用しています。
日本代表チームは代表選手に、長らく親しんできたオーバーハンドパスからアンダーハンドパスに慣れ親しんでもらうために、毎年日本陸上競技連盟主催の代表合宿を開催し、技術の向上に努めています。
しかしながら決勝常連のジャマイカやアメリカチームの各国には日本の実業団のような制度がなく、大半の選手はプロ選手で、海外の賞金レースなどで生計を立てており、代表チームでの活躍よりも個人の記録や順位が最優先です。
どちらが良いか悪いかは別として、こうした各国のチーム事情を考えプロ選手が多いチームは1からバトンパスを教えるよりも慣れ親しんだオーバーハンドパスが良いという観点からオーバーハンドパスを採用しています。
また、日本人の走りは、海外の選手よりも上下動の動きが少ない効率的な走りをする選手が多いという特徴があります。
バトンパスをする時にフォームが崩れるオーバーハンドパスよりも、日本人の特徴に合っていることも記録が向上した一つの要因です。
一概にオーバーハンドパスが各国に合っているかはまた別問題なので、今後世界がアンダーハンドパスにシフトチェンジしていく可能性は低いと考えます。
このように日本男子4×100mリレーは、日本人の特徴に合ったアンダーハンドパスの導入などにより日本がリレーで世界大会決勝の常連となりました。
2020年の東京オリンピックでも活躍を期待したいです。
(t2)